チラシの裏の走り書き

地獄に沼って書かざるを得なくなった女の独り言

とにかく書きたかった蛍火艶夜感想

最近読んだ蛍火艶夜があまりに衝撃的で感想を書き散らしたい衝動に抗えなかったので日記開設。そもそも私は漫画も小説もジャンル関係なく乱読する人間だったのだが、あまりこれまでの人生でBLの沼に浸かったことはなかった。むしろ社会人になるまでふーんそんなのもあるのか、あまり私の癖(へき)ではないかな、とあまり触れてこなかったのが正直なところだった。社会人になって電子コミックが流行り始め、ランキングに入っていたりおすすめで流れてきたのを契機に極めてソフトなやつ(性的表現がマイルド、男女に置き換えてもいけるような、いわゆる入門的な)を少しかじった程度で、もっと踏み込むきっかけにはならず、実用用途ではもっぱら成年かTLを好んで漁っていた。年々コンテンツに対する感性が鈍ってきている実感があって、もう魂持ってかれるコンテンツに出会えるのなんて数年に一回とかになっていたのに、BLという全く新しいジャンルで錆びついた感性の扉が全開になるなんてもはや感動的。以下、ゴリゴリのネタバレを伴う書きなぐりです。

2024.1やぎはし考追記

 

・橋内和中尉編

自白しするが私はやぎしずよりつかはしで脳を焼かれた。踏み込んでみたらとんでもない沼だった。考えてみれば年下×年上がもともと癖で、ギャップ萌えで、かついい男(女でもいい)が理性や羞恥心をかなぐり捨てて快楽に溺れる描写が好きすぎる私にはもう沼が手招きしていたようなものだろう。2周3周するうちにギャグとシリアス、エロと日常(彼らにとって、という意味で。現代の感覚では異常な非日常ではあるのだが)のバランスの絶妙さにも唸った。あとは作者さんのTumblrで書かれていた通り登場人物が全員握力体幹げきつよなのが素晴らしいです。ありがとうございます。

後述する通り、浸かっている限りのたうち回るほど辛い沼には違いないのだが、この沼の居心地の良さを醸しているのはおそらく橋内さんとたろちゃんの人間性だと思う。やぎしずに比べてあまり精神的にダークな部分に触れてない気がして、ふたりとも育ちが良さげなのが大変良い。橋内さんなんてあんな壮絶な過去があるのにそれをどこかはけ口にする描写もなく、整備兵にも(そしておそらく部下にも)慕われてて、過去培ってきたであろう憎しみや屈辱、絶望をどうやって自分の中で消化してきたのか。戦闘機の操縦が抜群に上手いってのも大変良い、しごできな人大好き。そしてたろちゃん、何もなければギャグ要員になりかねない素朴な男の子なのに、後家のトシ子さんに教育されて性的にめちゃくちゃオトナ、かつ大砲持ちというアンバランスさがキャラクター造形として秀逸。単なるイケメンで生まれつきテクニシャンみたいな巨根ではあの日常パートの会話の絶妙な面白さは出ないのよ。「なら俺にも言わないで」の顔とセリフとか、あんなに小さいコマとセリフなのにもはやエロパート以上に好きですらある。

本題に入る前にすでに長くなってしまった。もうつかはし編、とにかくセッの流れが良すぎて好みすぎて購入して一週間経つのに未だに暇さえあれば読んでいる。最後まで読むと情緒がぐちゃぐちゃになって魂持ってかれるのに実用性もあるのはなんなんだ。こんなの初めて。

もうキスのくだりは私以上に絶妙に感想を書いて下さっている方がいるので今更書かない。ちなみにその方の記事が購入の決定打になった。あまりに文書の上手さとそこから溢れ出る情熱がすごすぎて未だに読み返しては赤べこのように頷いている。一文ごとに10回くらいいいねボタンを連打したい。

あまり他の人の感想で触れられてないところで言うと、私は橋内さんの手の表現と理性がぶっ壊れて「塚本、気持ちいい」って出ちゃうところがツボすぎて作者さんの画力と構成の上手さにひれ伏している。橋内さんの手、前半はほとんど顔か口元を覆ってたり、自身を守るように胸元で握ってるのね。ちなみにイくときは胸元で洋服握ってる。最高。この手の表現、すんごい萌えはするんだが、彼の過去の描写と相まって、過去の性体験に一方的に暴力振るわれるだけの本当にひどい思い出しかないんだろうなと思うと胸が詰まる思いにもなる。思えばこれって古今東西あらゆるエロコンテンツで描かれてきたであろう「こんなの初めて」の一つの表現なのだが、間接的でありながらこんなに鮮やかで悲しくて苦しい「こんなの初めて」を私は見たことがない。こんなの初めての入れ子構造。そんな彼がたろちゃんに触れられるうちにだんだん手を彼の顔に添えるような描写があったりして、最後の正◯位のとこなんてがばっとたろちゃんの背中に手を回して思いっきりしがみついてるの、あんな最低な思い出しかなかった行為なのに快楽に理性も羞恥心もぶっ壊されて自分から求めちゃうの本当によかったね、ってなる。同時に初めて塚本って名前呼ぶし、台詞もそれまで驚いたり戸惑いながら喘ぐみたいなのばっかりだったのに、気持ちいい連呼しててもう最高。トラウマ抱えて自分にリミッターかけてたような人が理性も羞恥心もかなぐり捨てるカタルシス、見応えありすぎる。愛が生まれたかどうかは分からないけど、橋内さんはたろちゃんによって身体だけでなく凍りついて半分自棄になっていたであろう心まで箍が外れて新しい世界が開けたのが分かる描写なのがもう泣ける。

からの、ラストはもう鳥肌と涙なしには読めない。他の方の感想でもあったのだが、橋内さんが軍人としての自分の使命は置いて、残りの3日間たろちゃんが来るのを期待していた一方で、たろちゃんは最後の一日、ようやく開放されたのに整備兵としての自分の仕事を全うしてずっと特攻機の整備をしていたというすれ違いが切なすぎる。二回目、三回目があったら育ちの良い二人だからこそ素直に自分の思いをぶつけてもっと良い関係を築けたと思うのよ。ビビり散らかすたろちゃんに橋内さんからキスして、たろちゃんの甘やかし系セッで橋内さんがデロデロに溶けるのが見たい。。それなのにあのラスト。。もう何度読んでも、本来もっと築けたはずの関係、得られたはずの愛情が得られなかった結末が皮肉すぎて切なすぎて気持ちの整理ができない。終戦直前の特攻って成功率が10%とか20%とかだったみたいだけど、それを「見事成功させた」橋内さん、きっと本来は敵の戦闘機と戦って生きて帰還するために磨いてきた操縦技術をそんな目的で使うのは本人も心の底では納得できていなかったのではないかと思う。でもどんどん悪化する戦況とともに特攻に「志願」し、それを受け入れて、自分の中で消化してきたのだろうか。かつて自分が受けた性暴力による苦悩と絶望を表に出すことなく消化してきたように。もうこのエピソード、ラストが辛すぎるのに物語の力がありすぎて読み切ってしまう。そしてそのたびにのたうち回って途方に暮れてpixivで他の方の描いた二次創作を見て溜飲を下げるというスパイラルに陥っている。私は原作至上主義的なところがあって、普段は自分の好きな作品でも二次創作はそんなに積極的に見に行かないのだが、この作品に限っては、原作を超えていなくても解釈違いでもいい、とにかく救いをくれ、と飢えたように人様の作品を見ている。

たろちゃん、短期的には多分思い残しはあるにせよ満たされたのではないかと思う。あの限られた時間の中で、自分の行為で橋内さんを満足させられたか、彼の思い残しを晴らすことができたかどうかきっと気になっていたはずで、それが最後のキスで十分すぎるほど伝わったと思うから。戦時下で、軍という特殊な環境と搭乗員と整備兵という距離のあった関係性であるが故に、それが分かって喪失感を抱えながらも満たされたはず。短期的には。それが恐ろしい後悔をはらむようになるのはおそらく一年とたたないうちに戦後を迎え、軍という統一的な価値観で洗脳された環境から「平和で民主的な」世間に放り出されてから。新しい価値観のもとで自分の行動を振り返ったとき、たろちゃんは足元が崩れ落ちるような後悔と絶望に襲われたのではなかろうか。そして自分だけにあんな表情を見せた上官が自分が正しいと信じた道で使命を全うしたことに対しても、世間から好き勝手な批判に晒されたであろう辛さについては想像を絶するものがある。でもたろちゃんは歯を食いしばって戦後を生き抜いて長生きしてほしい。家族の前では明るく振る舞って決して表には出さないだろうけど時々トシ子さんの家でお茶飲みながら号泣しててほしい。そして平成になって沢山の子供や孫に看取られて(子沢山家系)、唯一持ってた若くて綺麗なままの橋内さんの写真を棺桶に入れてもらうんだ。孫とかにはこの写真の人だれ?イケメンだねーとか言われながら。彼は長い長い時間をかけて、あの5日間を幾度となく反芻して、最後には自分の中で折り合いをつけることができただろうか。どんな気持ちで旅立ったのだろうか。ウッウッ もうたろちゃんに感情移入しすぎて情緒が死んでる。なんだこれ。

・八木正蔵中尉編

こちらはいろいろな観点でつかはしとは対照的だなと思うエピソードだった。まず二人とも不安定というか、自己肯定感低そうというか、とにかくやりとりもセッも根底に厭世観が見え隠れする。そして何回体を重ねても決して心が重ならず、しずまくんの自分にかけた呪いの深さと八木さんの素直になれない性分ゆえに二人の間にある最後の一線が取り払えなくて辛すぎる。私はこのエピソードをエロBLの目線で読むのではなく、どうしても当時の同性愛者が抱えていたであろう悩みをリアルに切り取った漫画として読んでしまう。しかしこれ、つかはしとの対称性が本当に緻密に計算されて物語が作られているのが分かる。読めば読むほどプロットの絶妙さに、そしてつかはしとは別のベクトルでの救いようのなさに頭を抱えてのたうち回っている。

でもやぎしず、ビジュアルがいいよね。それぞれ違う系統の男前だし、二人のビジュアルの相性も良い。大変良い。このカップルのビジュアルの相性というところに私はちょっとした癖があり、この線細めでいかついヤンキー系の攻め(北方系)と少年ぽさの残る中に色気のある受け(南方系)というのがドンピシャでハマることに気づいた。男前筋肉質という共通点と顔と属性の差異点の絶妙さよ。。あまりに似ていてもあまりに違っていてもだめなんだ、適度にバランスが取れていてお互いに惹かれるポイントが分かるような。。特にしずまくんはキャラデザが本当に良くて、作者さんが気合を入れられたのがよくわかる。明るくていい子が闇落ちして色気を纏った未亡人になるのに最適なビジュアル。。

八木さん、見た目のみならずメンタリティもヤンキーなんだよな。ままならない現実に怒りを抱えて、自分の悩みや弱さと折り合いの付け方が分からず、それを表に暴力という形で放出することでしか対処できないガラスの心。。話は反れるが、中編の最初の一ページ、軍隊という舞台の緊張感と死の匂い、心の凍る絶望感を本当にうまく描き出していると思う。右下のコマ、おそらく安置所ということよね。。次のページの八木さんのコマもよかった。部下を失った悲しみと苛立ちと、鋭利なナイフのような触れただけでブチ切れそうな不安定さが最高。試し読みでこのシーンを読んで、あ、これは凄い漫画だ、買わないと後悔する、と思ったが私の直感は間違っていなかった。

さらに脱線するが、八木さんと橋内さん、同年代かつ同階級なのにあまりにタイプが違うので考察していくと深みにはまってしまう。八木さん、操縦の腕前がどんなものか描かれていないのだが、おそらく年代的に予科練の選抜が厳しい時代のエリート航空兵で、損耗率の高い航空隊であの年まで生き延びているんだからそれなりなのだと思っている。南方の戦場にいたのかなとか。、しかし、彼は本来の性格としてはむしろ文官向きで、たまたま本人の興味と能力が航空兵に向いていたためにその道に進んでしまった不幸なパターンではなかろうか。器用貧乏ともいえそうな。そしてさらに悪いことに、きっと影響を受けやすい若い頃にめちゃくちゃ話を聞かずに殴るタイプの上官に叩き上げられたのだと勝手に推測している。よく言われることだが、幼少期にしろ社会人初期にしろ、その環境に慣れないうちに自分を育てた人の影響は少なからずその後の人格形成に影響を与えると思っていて、八木さんの本来的な性格の柔さとあの外面の悪さの歪みはそこから来ているように思う。いわば悪い形で軍隊教育の洗礼を受けた人で、だから本来は部下を失うのが怖い自分がいるのに対話を通じて育てることができない、失敗に対してフォローしなければいけないのに言葉でなく拳が出てしまう、という誰もが損をする道を選んでしまう。部下にとっては嫌な意味での緊張感を与える上官で、話しづらいしフィードバックももらえないからプレッシャーに負けて部下がどんどん自滅していく。。もし八木さんが若い頃に違う形で上官に育ててもらっていれば、もししずまくんのような自分のセーフティーゾーンに強引に入り込んで意見してくれる部下に巡りあえていたら、きっとしずまくんに対する接し方も変わっていたと思うと切ない。でもそうなるとやぎしずは成立していないのか??キィィィ

一方の橋内さん、あの壮絶な過去をどうやって消化してきたのかまだ私の中で確固たる答えは出ていないのだが、一つの説として激烈に悲惨な文学とか、暗い哲学とかに触れて正気を保っていたのではないかと思っている。過去の世には自分の経験でも太刀打ちできないほど悲惨な境遇にあった人は多い、だから自分なんかまだましだという。、とはいえその中にロマンを見出す文学青年タイプではなく、自分の経験を正当化して整理するための道具として利用する脳筋タイプだといい(おそらく八木は暗い文学をもろにくらう。文学青年の素質ありそう)。にもかかわらず、あの人当たりの良さを考えると、おそらく八木さんとは正反対の上官についていた可能性が高そう。技術があって根が素直なんだから見る人が見ればこいつは伸びると贔屓にしてもらえたはず。だから軍人としての考え方や部下の指導方法はすごく恵まれた系譜を引き継いでいて、多分人を育てるのもうまい。一方、これも主観含みだが、若い頃に自分のケアに手一杯だった人はどこか周りに対して一線を引く傾向にあると思っていて、彼の方が八木さんより実戦では味方を切り捨てる判断ができるタイプだと思う。判断が早いし八木さんほど心も痛めない。冷徹とも言う。幸か不幸か、おそらく彼のほうが「うまく」軍隊教育に染まって馴染んでしまった。同年代の八木さんから見ると、橋内さんは技術云々よりも戦場での肝のすわりかたというか、メンタルのブレなさが異様に映っているのではないかという仮説。。たろちゃんへの告白シーンも、特攻決まってからのシーンでも、しずまくんとは別のベクトルで自分は近い将来死ぬというのを受け入れている諦念を感じるのが。。

この二軸で語るのが適切か分からないが、八木さんはプライドが高く自己肯定感が低いタイプ、橋内さんはプライドは比較的低いけど自己肯定感は高いタイプのような気がする。あの年の階級まで実力を伸ばして生き延びたベースにあるのが、八木さんは死に対する恐怖、橋内さんはまっとうに軍人として育ててもらったことでのプライドと責任感だといい。

突然降ってきたのだが、海軍で二人の育った環境が逆だったらと考えると、八つ当たり制裁する橋内さんといかしたベテラン搭乗員の八木さんがいたかもしれないってこと?やばいやばいやばい、性癖が破壊される。爆発四散しちゃう。。

マイナーかつ邪道なのは分かるが、私は圧倒的にやぎはしも美味しくいただける自信がある。はしやぎでもいい。二人の外面があまりに対照的なのにおそらく抱えている闇の深さは同じくらいなのがオタク的に美味しすぎる。スルメを肴に日本酒を飲み続けるように考察すればするほど無限に味わいが増す中尉組の沼。。。

ようやくやぎしずの話に戻るが、しずまくん、自分の性指向を否定され続けて、生への執着がなくなっていたのだろうという点については別の方がこれまた抜群にうまくまとめて下さっているので私はそれを超える分析はできない。特攻に志願するときの表情に迷いがなさそうなんだよな。。そんな彼の希死念慮とも言うべき絶望と八木さんの加虐癖丸出しのセッ、あまりに相性がいいのは分かる。でも良ければ良いほどしずまくんの抱える絶望が際立つのが救いがなくて辛い。頼む、せめてセッのときだけはハッピーでいてくれ、つかはしのように。。

これは好みが分かれるのも分かる。私は圧倒的にやぎしずは辛くて筆が乗らない。つかはしが「なんでそうならなかったんだー!!」と大声で叫びながら拳で床を叩きたくなるようなアッパーな辛さだとするとやぎしずはBADに入るようなずっしりしたダウナーな辛さである。

もっとゴリゴリ考察したいのだが、しずまくんと淀野さんだけは他のメイン登場人物より二重三重に追っている業が深い気がしていて(しずまくんなんてもう現代にも通じるガチ重な悩みを背負っていて)、なかなか考えがまとまらない。。

・作者さんも編集部もすごすぎる

こんな圧倒的に心をかき乱される漫画を生み出してくださって作者さんと編集部には感謝しかない。舞台設定にしても表現にしても、コンプラ的にもっとセーフに寄せる選択肢はあっただろうに、ぎりぎりのラインに挑んでくれているのが分かる。編集部、たぶんネームとか読んだ段階でこれはいけると判断されたのかな。こんなに凄いBL、仮にどこかから怒られが発生しても歴史に残ることは間違いないもんな。おそらく、漫画としての力強さがありすぎてこれは絶対に売れるという経営判断と、この漫画を世に出さなければという出版社魂だったのだろうと想像する。私もコンプラ的に問題もなく人道的な葛藤しか描かれない漫画も好んで読むし、そうしたものの中にも傑作は沢山ある。でもそうした漫画からは接種できない強烈な業に性癖を破壊されて幸せです。まさか3◯歳にして突如BL沼の底まで引きずり込まれる人生になるなんて全く予想できなかったよ。。

 

追記

やぎしずのテーマは「春のかたみ」が公式のようだが、つかはしは鬼塚ちひろの「蛍」を推したい。歌詞もメロディーもタイトルまでマッチしすぎてるのよ。、季節だけは違うけども。

「その一瞬が永遠だと、あなたは教えてくれた人」。。。ウッウッ